珍説百物語【16】
珍説百物語〜鼻袋〜
蝋燭:壱拾六本目『硬い肉仮面』
真昼間、咽び泣く蝉の鳴き声で、ハッと目を覚ます。
暑さからか、明らかに寝ていた場所から、掛け離れた畳の上で、うつ伏せに寝ていたらしい。
ふらつきながら、廊下で、おふくろとすれ違う。
「お前、凄いことになってるよ、鏡見てきな! ふっははは」
と、笑われたので、洗面台で顔を覗くと、右の頬に酷い畳の後と、もの凄い寝癖であった。畳の後は仕方が無いとして、クシで髪型を整えながら、鏡を覗いていると、背後に視線を感じた。
開けたドアからまっすぐ伸びた廊下の突き当たり壁の上方に、視線の正体があった。
それは、恵比寿様と大黒様の仮面が並ぶ民芸品だった。
並んだふたつのふくよかな中年男性の笑顔が、何だか気味が悪い…。
そっと、洗面台のドアを閉めたが、それでも何だか背後が気になった。
今晩、おふくろが用事で出掛けるらしく、慣れない実家に独りぼっちなってしまうので、少し、心細かったせいかもしれない。
ぼぅ、としているうちに、日が落ちた。
晩飯は自分でお願いな、と言われたので、ステーキを焼いてみた。
おふくろが料理するような、うまい飯には程遠い出来である。
とりあえず、口に運んでみて、唸った。
『硬い! 肉、噛めん…』
どうやら、俺には料理の才能が無いらしい。
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